大侍従卿 Lord Great Chamberlain

国王の閣僚(the Great Officers of State)の第六席。

紋章院総裁と並んで1999年の法改正後も貴族院に世襲の議席を認められている。

国王の戴冠式では赤のコートに白い杖を持ち金の鍵を腰に下げ祝宴の前後で国王に近侍する。平時はウェストミンスター宮殿の管理を担当する。

バッキンガム宮殿を管理する侍従長(Lord Chamberlain)とは別個の職であることが王室公式ウェブサイトで言及されている。

大侍従卿の起源はウィリアム征服王の頃のロバート・マレットに遡り、1133年ヘンリー一世によってマレットの領地・称号が没収されオックスフォード伯爵家の祖オーブリー・ド・ヴェラーにこの職が与えられて以降(幾度か世襲の剥奪、職自体の剥奪、他の貴族の就任を挟みながらも)永らくオックスフォード伯爵が世襲した。

17世紀に十八代オックスフォード伯が継嗣なく断絶した際、貴族院の裁定により十六代伯の娘と結婚して女系の繋がりがあったウィロビー男爵家(後にリンジー伯、アンカスター・ケスティーブン公となる)で世襲されるようになった。

四代公が継嗣なく死去すると爵位は公爵の叔父に継承されたが、大侍従卿の地位については四代公の二人の妹の家系が継承すると貴族院で裁定された。

末の妹の家系はチャムリー侯爵家として男系継承が続いているが、姉の家系は途中で男系が途切れて女系継承により複数の家系に分枝している。国王の代替わりの度に姉の家系と妹の家系(チャムリー侯爵家)で交代して職に就き、国王存命中に現職者が死去した場合は同系の継承者により引き継がれる輪番が行われている。

先々代エドワード八世のときは妹系の五代チャムリー侯爵、先代ジョージ六世のときは姉系の二代と三代のアンカスター伯、当代エリザベス一世では妹系の五代・六代・七代のチャムリー侯爵が大侍従卿を務めた

職名の和訳語に式部卿/式部長官を充てる場合があるが、日本(語)の「式部(卿/省)」は朝廷年中の儀式、六位以下の文官の考課、選叙を掌(石村貞吉 講談社学術文庫「有職故実(上)」P68)官職であり、英国でこれに相当する役目があるのは国王の年中行事を管理している王室府の侍従長(Lord Chamberlain)になる。Lord Great ChamberlainとLord Chamberlainは名称が似通っており、これが混同されたものではないか。
日本の「式部」職は人事教育部門・行事管理部門であって行事自体の進行や現場での近侍を務める職ではない(例えば即位の礼では典儀として少納言が儀式進行を務める)
このため当サイトでは訳語として「式部卿/式部長官」は用いないこととした。
個人的には君主に近侍して政治的に重きをなした経緯があり職務内容からは「蔵人頭」が妥当に思えるが、Chamberlainの訳語として「侍従」が定着しており、同じく君主に近侍する役目であるので(やや直訳過ぎる感はあるが)「大侍従卿」が適当と判断した。

スポンサードリンク