中世馬事情(十六) 馬に関する職業とその育成

中世の優れた騎手というのは即ち騎士であった。

通常、中上流階級出身である騎士は、幼少期から戦闘技術と馬の管理術を仕込まれた。

多くの言語において、騎士は騎乗身分としての地位を反映した用語となっている。

フランス語のシュヴァリエchevalier、スペイン語のカバレロcaballero、ドイツ語のリッターRitterなど。

馬の達人を意味するフランス語のシュヴァリエは、騎士階級の行動規範である「騎士道」シーヴァリーChivalryにその名を残した。

馬の適切な管理と世話を確実に遂行するために多くの職と地位が生まれた。

大貴族の家中において、厩長官marshalは馬に関連するすべての側面を担当した。

それは旅行や運搬だけではなく、軍馬から荷馬まで全ての馬の、世話と管理を含む。

宮廷内における厩長官(文字通り”馬の召使”)の地位は高く、(イングランドの軍務伯=アール・マーシャルのような)国王の厩長官は多くの軍務について管理責任を負った。

現在でも大貴族らの家中では、家中の警備と秩序維持を担当するほか戦闘集団を指揮する司馬constable(または厩舎伯)が、厩長官とともに槍試合やその他の騎士行事を運営する。下層社会では、馬の専門家は装蹄師となる。高い技量を有する装蹄師が蹄鉄を作成・装着、蹄の世話をし、一般的な獣医療を馬に施した。

中世を通じて、より狭い範囲を担当する鍛冶師と装蹄師は区別されるようになった。

多くの職種が馬の提供に携わった。

馬商人(イングランドではしばしば”馬狩り”と呼ばれた)は馬を売り買いし、しばしば盗まれた馬の取引に積極的に手を染め、不正な蓄財で悪名を得た。

一方、貸馬車屋の様なものたちは、交通量の多い道で多くの施設や貸馬を提供し、盗難防止のためしばしば焼き印を施した。

(十七)へ続く
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