中世馬事情(一) 序文

馬上槍試合ジョストにおけるウィリアム・マーシャル

中世の馬は、現代のそれとは、大きさ・骨格・育成方法が異なり、平均的に小型である。

当時の馬は、戦争、農業、輸送の必需品であり、現代よりもはるかに社会の中心的な存在であった。

馬の種類に対する観点も、現代とは大きく異なっていた。

現代の馬の育成方法と馬術についての理解は、中世の馬を分析する上で重要ではあるけれども、(記述や描写された)書証と考古学的証拠を考慮しつつ、研究する必要がある。

中世の馬は、品種で区別されるのではなく、用途により区別されており、例えば”チャージャース”(軍馬)、”ポールフリー”(乗馬)、荷馬車馬、駄馬という様に記された。

”スペイン馬”の様な、その産地から採った記述もあるが、それが一つの品種を表したものなのか、複数(の品種)なのかは不明である。

中世の文書や文献を研究する際の別の問題として、一つのものを表す複数の単語が存在し、また逆に一つの単語で複数のものが表現されたりする、中世の言語の柔軟性がある。

”コルセア courser”(駿馬)や、”チャージャー chargers”(軍馬)のような語は、(同じ文書の中でさえ)言い換えて使われ、一つの叙事詩の中でも、乗用馬への軽蔑と、その器用さや迅速性への賛美が、ともに語られていたりする。

しばしば、他の文化圏から馬具の重要な技術的進歩がもたらされ、戦争と農業の双方に重要な変革を与えた。

木製鞍、あぶみ、蹄鉄、首輪(はも)の形状が特に進歩を見せた。

歴史家による仮説や理論は、繁殖法や馬体の大きさ、問題領域の範囲を理解するために考慮されなければならない情報源など、まだ多くの問題について議論が分かれている。

(二)へ続く
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